【感想】江國香織「流しの下の骨」を読みました。家族だけに通じる面白くてちょっと変なルール。

本日は、江國香織さんの「流しのしたの骨」という小説をご紹介させていただきます。

江國香織さんの小説はこれまで何冊か読んだことがあります。

なんとも不思議な気持ちにさせてくれます。独自の価値観というか世界観をお持ちな方だなという印象を受けています。

この「流しのしたの骨」という作品も変わっていて一文一文がとても新鮮で楽しめました。

大きい出来事が起こるわけではないのですが、いつも新しい景色を魅せてくれます。

ストーリー

「ねえ、ことこ、ぎんなんと本どっちがいい?」

いつもそこには、誰も理解できないような我が家だけのルールとこだわりが存在する。

よその家って面白い。19歳こと子が語る、少し変わった六人家族のほのぼの物語。

こんな家族っていいな。

こんな方におススメ!

・ゆっくりと日常が過ぎていく物語が好き

・空いてる時間に読書がしたい

・江國香織の世界観に浸りたい

・いろんな家族の在り方を覗いてみたい

・あまり重いことを考えたくない

・リフレッシュしたい

読みやすさ

ストーリー
(3.5)

構成
(4.5)

登場人物
(5.0)

Total
(1.0)

薄くてとても読みやすい小説です。カフェや、通勤中、ちょっとした待ち時間などにおススメ。

サブタイトルなどで章分けはされていませんが、シーンごとで区切られていてとても読みやすいと感じました。

ストーリー展開的には、あまり強弱がなくゆったりと時間が流れていて、家族の秋から翌年の春の様子が季節の変化を伺わせながら心地良く描かれています。

登場人物それぞれクセが強く、”ただ変わっている”という印象がありました。

それが、読み進んでいくほど魅力を感じずにはいられず、終わるころには、どことなくバランスのとれた家族だなぁと納得してしまいます。

見どころ

なんといっても江國さんの癖のある個性的な表現言葉の選び方に魅力を感じます。

登場人物の会話の内容や、背景や人物を説明する言葉は非常に丁寧で細やかに描写されています。

特に、ことちゃんと弟・律の関係と恋人である深町直人との会話に注目して頂きたい。少々滑稽で、癒されます。

感想

ここからは、私が個人的に気に入っている台詞や文を抜き出して自由に感想を書いていきます。

興味のある方は覗いていってくれると嬉しいです。

ネタバレを含んでいますので、先に読了をおすすめします。

もし、気が向いたらこちらに戻ってきて頂けると幸いです。

流しのしたの骨

タイトルでもあるこの言葉についてまず書いておきたい。

私は、小説を読むとき必ずと言っていいほどタイトルに目をやってしまう。内容と照らし合わせてしまう習慣がある、と最近気づいた。

作家さんはどういう意図があってこのタイトルにしたのだろうとか、どこに繋がっているのかなとか、深く考えてしまう。

最後、自分なりに消化できるととてもスッキリするのである。

この小説の場合、それが”不完全燃焼”といったところだ。

一か所、このタイトルが書いてある場所を見つけたが、何かもっと深い意味があるのではないかと考えるが

、出てこない。なんだかもどかしい。

お母さんがしまちゃんと、ことちゃんに昔突拍子もなくしたお話しの一つだという。

「流しのしたの骨をみろっ」という母の低く太い声が、彼女たちを今でもゾッとさせる。

一体、どんな話だったのだろう。

”流しの下には何か誰も知らない恐ろしい秘密が隠されている”から気をつけなさいという怖い話だったのか。

そよちゃんの夫、津下さんの骨が隠してあるのかと思ったがそうではなかった。

国語が苦手だった私には難易度が高かったのかもしれない汗

誰かを殺してしまったら、骨は流しの下に隠すと思う。

しま子はそう言っていた。ただ、幼い頃の怖い思い出として流しの下=隠したい秘密の物をしまう場所と一種の刷り込みとして彼女たちの中に残っているのだろうか。

家族だけに通じる見えないルール

大学に通わず、夜の一人散歩が好きなお歳暮担当のことこ

おっとりとして落ち着いている長女のそよちゃん

いつも何かをくれて、優しくて、いつも変な恋人をつれてくるしま子ちゃん

裸体人形に塗装を施すのが好きで、ピアノが上手な”小さな弟”の律

規律を重んじる家族想いの父

詩人でこだわりが強い母

一見ばらばらな六人だが、一つ大きな共通点がある。

家族全員が”我が家”を愛しているということ。とても大切に思っているのが伝わってくる。

こと子が左利きの練習をしてようと、律がフィギュアづくりのことで学校から呼び出されても、家出をして帰ってきたそよちゃんのことも他人の赤ちゃんを育てたいと言い出したしま子ちゃんのことも、誰も責め立てたり馬鹿にしたりせず、寧ろ理解し応援しようとする。

家族みんなが、さも当然のように味方になって守ってくれようとしている様子は読んでいてとても心地よい。

理想の家族の形だなと思った。

のびのび、活き活き、一緒にいることがとても居心地良いという雰囲気が伝わってくるようで、そしてうらやましいと思った。

家族独特の空間、規律、価値観が存在する。なんだか分かる気がする。

深町直人に弟の律を初めて合わせた時、律がとった行動をみたこと子は、

マナーとか行儀とかの問題ではなく、なんとなく、秘密を見られてしまったような気がしたのだ。

と思っていた。

それは恥ずかしいという気持ちなのか、他人からの軽蔑の目が怖いという意味なのか、それとも、私たちだけの秘密なのだから知られたくないという独占欲か何かか。

答えは書いていないが、共感した。

家族だけのルール。流しの下にずっとずっとしまっておきたい大切で失いたくないもの。

最後に

小説のなかに、ことちゃんが大好きな折り紙の折り方の手順が数ヵ所にわたり書いてあり、これは江國香織さんの遊び心かななんてわくわくしました。”好奇心あふれるヘレンケラー”だとか個性豊かな表現がたくさん詰まっていて、思わずツッコみを入れたくなるような文章はとても面白いです。

と、同時に多くの現代の人が抱えてるであろう悩み、機微な心情をテーマとしてソフトに取り上げているかと思います。

こんな生き方もあるのかと様々な賛否両論両方の意見が出てくるのかなと感じました。

おススメの作品です!

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