【山女たちの成長登山】湊かなえさんの「山女日記」あらすじとレビューをまとめました。

こんにちは、れんげです。

湊かなえさんの山女日記のあらすじ・感想をまとめました。

後半はネタバレ含みますので未読の方は、途中までお楽しみください。

れんげ


このブログの執筆者である私は、月30冊年間300冊以上の小説を読み漁っている小説好きのOLです。
あなたの読書習慣、または本選びに少しでも役に立てると嬉しいです。

山女日記という作品を大まかにお話しますと….

誰にもいえない悩みや生きづらさを抱えている女性たちが、山頂の美しい景色を目指し、山を登る。

自分なりの答えを見つけたい、ゆっくり1人で考えたい、ただ山が好きだから登りたい。

様々な理由で山を登る女性たちの心情を丁寧に描いた、爽やかでスッキリする短編集です。

ポイント

イヤミスの女王というイメージが強い湊かなえさんの、爽やさと穏やかさを楽しめる一冊

山の景色や登山道、そこに生えている植物や鳥、季節感が妙にリアルで鮮明に描かれています。

・山に登る目的がそれぞれ違う登場人物たちの心情の変化が共感を誘います。女性読者におすすめです。

 

テーマは「登山」という普段お目にかかれない、湊かなえさんの一面を見れたような、こんな物語も描くんだ!

と驚きとワクワクな気持ちを胸に読み始めました。

でもやっぱり…..湊さんらしさもありました^^

 

登場する女性たちみんな、どこか毒毒しくて冷めているwどこか捻くれててクセがある人ばかりで…

でもそこが、人間味溢れていて共感できるんですよね。女性読者が多いはずだなと。

 

 

そして、もう一つ。

湊さんはこの作品を描くにあたって、実際に登山を経験したに違いないと思います。

短編の一つ一つのタイトルに山の名前がついていて、登場人物たちはその山に登山しにいくわけですが…

読んでいるだけのこちらまで、その道を歩いている気分に。

悩みを抱え生きづらさを感じている登場人物たちの背中をそっと後押ししてくれる—という内容ですが、

山の壮大な景色や山道での細かな発見と驚き..そういった描写があってこそ本当の感動が生まれてくるわけですね。

 

息は苦しいし、足腰は痛むし、山のルールは厳しいし…

嫌なことづくしなのに、山を愛する者たちが何度も登山に挑戦する理由とは何なのか。

この物語を読んだ後、それでも尚、山に登ってみたい!と思ってしまった読者の方は多いと思います。

 

 

それでは、章ごとのあらすじをご紹介していきます。

短編ごとのあらすじ

第1章 妙高山

 

〜新潟県妙高市にある標高2,454mの成層火山〜

 

トップバッターを飾る主人公は、丸福デパートで働く30歳女性、江藤律子。

 

律子は、恋人との結婚に踏み切れず悩んでいました。

 

律子の恋人、堅太郎とは同じ職場で知り合い結婚間近。

 

彼の両親のもとへ挨拶へと行った律子は、突然彼の母親が同居する気でいると知らされます。

 

堅太郎も律子を庇うことなく、淡々と進めようとする様子に腹をたてていた律子。

 

「本当にこの人と結婚するべきなのだろうか。」

「こんな気持ちのまま結婚することはないのではないか」

 

そんな時、同期の舞子と由美と三人で妙高山に登る約束をします。

 

よし、この旅が終わるまでに答えを出そう。そう決心し登山に臨みます。

 

しかし、張り切っていた律子をよそに、舞子のドタキャン…そして普段着のようなやる気のない格好で来た由美に

 

早くも律子の心が折れそうになります。

 

さらに、由美の不倫現場にも遭遇していた律子は、それも手伝って登山中も由美への怒りはふくらんでいきます。

 

果たして無事に山頂に辿り着けるのか。律子の結婚に対する決意はできたのでしょうか。

 

第2章 火打山

〜新潟県糸魚川市と妙高市にまたがる標高2,462mの頸城山塊の最高峰〜

 

 

このお話の主人公は、西山美津子。

 

時はバブル全盛期、美津子は田舎から上京し大手企業の事務職につき、

 

バブル特有の身だしなみや振る舞い方、生活の仕方まで上司から徹底されました。

 

会社はその後倒産。

 

現在は田舎に戻り、月給12万の老人ホームの事務として働く40代独身。

 

職場では、勝手に”バブルから抜け出せない女”として扱われていた彼女は、

 

お高い女というレッテルを貼られたことにとても不満を感じていました。

 

その勝手なイメージが影響して、安定した恋人を見つけられずにいた美津子は婚活パーティで神崎に出会います。

 

そんな彼に登山に誘われて、火打山へと登山に来ることになります。

 

彼もまた職場の人たち同様、バブルの女として気を使ったり持ち上げようと一生懸命な様子が美津子を苛立たせます。

 

登山中、彼に登山に美津子を誘った理由について尋ねます。

 

山での男らしさを見せつけたかったなどという答えが返ってくると思ったからです。

 

実際は違いました。

 

美津子には、山が似合いそうだな。と感じていたというのです。

 

誕生日プレゼントに登山用靴を選んでくれたこと、渡す時に拒否された時の言い訳まで考えていたこと。

 

そこまで自分のことに気づいてくれていた、想ってくれていたのだと嬉しく想った美津子。

 

彼女は本当の自分の姿を神崎に暴露しようと決心します。

 

山岳部に所属していたこと。

 

バブル期の上司たちの強制が、自分のとってどんなに辛かったこと

 

そして、今は庶民的な女なのだということ。

 

美津子が吐き出した後は、神崎が美津子に気に入られようと必死だったと打ち明けます。

 

本当はこんな男ではないのだ、と。

 

その後、頂上に到着した彼らは一章目に登場した律子と由美の姿を捉えています。

 

彼女たちが日本海側に向かって、それぞれの想いを叫んでいるところを。

 

彼女たちにならって美津子も彼女自身の決意を叫びます。

 

第3章 槍ヶ岳

〜長野県松本市・大町市・岐阜県高山市の境界にある標高3,180mの山〜

 

 

主人公は、牧野しのぶ。

 

しのぶは、律子たち(第1章の登場人物たち)の職場の先輩で幼い頃から父親に登山を教えられていました。

 

大学では山岳部に所属したが、集団行動がルールだったため、自分1人で自由に行動できないことが我慢できなくなり退部していました。

 

さらに大人になってから父と槍ヶ岳に登った際は、父の膝が動かなくなってしまい

 

山頂には辿り着けず引き返すことになり、もう誰とも登らないことを決意します。

 

そして、今回。

 

しのぶは一人きりで槍ヶ岳へ3度目の挑戦としてやってきたのです。

 

ところが、どういうわけか道中で出会った本郷さんという男性と木村さんという女性と一緒に登山することになります。

 

2人は宿泊しているホテルで知り合い、木村さんの方は登山初心者で夫を見返すために1人できた、といいます。

 

登山経験者の2人に遅れをとり始めた木村さんに対し、しのぶはアドバイスや最新の道具などを貸してあげようとしますが、

 

聞く耳を持ってくれず苛立ちが増していきます。

 

ああ、最初から断って1人で山頂を目指せばよかった。

 

しのぶは何度も後悔します。

 

しかし、初心者の背中をここまで押してきた本郷さんと話をして、

 

父親に八つ当たりをしまったことを後悔し、自分の未熟さに気付かされます。

 

三人が山頂までの一つのポイントまで辿り着いたとき、本郷さんに感謝され

 

しのぶは、今度は家族4人で登ってみようと明るい気持ちになるのです。

[say img=”https://her-bookshelf.com/wp-content/uploads/2021/11/cropped-れんげ選書-1.png” name=”れんげ]やっぱり一人登山が諦めきれないしのぶが、2人に別れを伝え颯爽と1人で山頂を目指していく姿は、なんか共感できて、嬉しくなりました。

[/say]

第4章 利尻山

〜北海道の利尻島に位置する独立峰で標高1,721m〜

父親と玉ねぎ畑の面倒を見るために、東京から田舎へ戻ってきた主人公、宮川希美。

 

医者である夫と結婚、七花という娘と三人で暮らしている姉の美幸は、妹が父親の年金を頼りに家に居座っていると想っており、

 

父親もまた、早く自立してくれという気持ちがあります。

 

母親の葬式の日に、2人が話している一部始終を見てしまった希美。

 

その時から姉からの見下された言動、そして姉夫婦からの軽蔑の目をいつも向けられていると思うようになります。

 

姉に突然誘われた登山もまた、希美にとっては自分の将来の話を持ちかけられる口実だと身構えます。

 

しかし、美幸はそんな話はせずに、希美の帽子を褒めてくれます。

 

しかもその帽子、希美の大学時代の友人の立花柚月が手作りした、登山グッズで今大人気の帽子でした。

 

そうこうしているうちに、不意打ちで将来のことを聞かれた希美は、喧嘩腰で言い返します。

 

ただ、それは美幸にとって本題への切り出し口でしかなかったのだと後で気づくのです。

 

美幸は、夫に離婚しようと言われ、これからどうするか、七花をどうするか、悩んでいました。

 

そんな時に、一緒にいて一番ラクな相手、希美を誘ったといいます。

 

そんな2人が、山頂に辿り着いた時。

 

幼い頃の仲良し姉妹のような晴れ晴れとした顔をしていました。

 

第5章 白馬山

〜長野県と富山県とにまたがる標高2,932 mの山〜

 

 

ここでの主人公は、天野美幸。

 

第4章で希美の姉として登場するあの彼女です。

 

利尻山を希美と登ってから2ヶ月後、今度は娘の七花を加え3人で登山をしようと白馬山に挑戦します。

 

七花は初めての登山にはしゃぎ、楽しそうな姿に喜ぶ美幸。

 

でも頭の中には、離婚のことでまだ悩んでいる自分がいました。

 

すべては七花の幸せのために正しい道を選択したい。

 

真面目な美幸は自分の気持ちより何より、七花を優先させようとします。

 

登山を始め、時間がたつにつれて疲労が溜まってきた美幸は、七花と希美についていくだけで精一杯。

 

登山経験者というプライドもあり「少しペースを落として」ともいえず、差が開いていきます。

 

ついに体力が限界に達し、足が前へ進まなくなってしまいます。

 

すかさず七花が自分がママを引っ張ると言い出し、それでも強気を貫き通す美幸。

 

たまらなくなって、希美が美幸に対する想いを洗いざらいぶちまけます。

 

そして、七花は美幸を守ろうと希美に言い返し、喧嘩を始めます。

 

その様子を見ていた美幸は、七花が自分を守ってくれようとしてくれていることに気づきます。

 

美幸は、娘のたくましい後ろ姿を目に焼き付けながら山頂を目指します。

第6章 金時山

〜箱根山の北西部に位置する標高1,212mの山〜

 

 

この物語では、梅本舞子が主人公となります。第1章に登場する律子のもう1人の職場同期の女性です。

 

彼女がドタキャンした妙高山以降、律子と由美との距離が近くなった事が気になり、

 

彼女だけ仲間はずれにされているような疎外感をも感じていました。

 

登山といったら富士山と思っていた舞子を、2人に富士山はつまらないと否定され

 

恋人である小野大輔に不服をこぼします。

 

そんな舞子を見兼ねた大輔は、一緒に山に登ろうと言ってくれますが、まずは予行練習として別の山に登る事になります。

 

舞子はがっかりしながらも、箱根・金時山に向かいます。

 

学生時代はバレーボールに打ち込んでいた舞子には、金時山は余裕すぎるほどの道のりでした。

 

山頂に着くと、突然目を瞑って欲しいという大輔に従い、移動した先で舞子が目にしたものとは…

 

なんと舞子がこだわっていた富士山でした。

 

金時山は、富士山を一望できる山として有名だったのです。

 

大輔は、富士山を数字でしか評価していない舞子に本当の魅力を伝えたかったがために計画したものだったのです。

 

そして、大輔は今まで舞子に伏せてきた自分の過去について語り始めます。

 

今は、バイトを掛け持ちしながら劇団員をしている大輔ですが昔は大手の証券企業に勤めていたということ。

 

数字の桁を一つ間違えただけで会社をクビになったこと。

 

会社を辞めてもなお、自分の頭の中は常に数字に支配されていて辛かったこと。

 

などなど。

 

そんな大輔の話に感動し、舞子は自分の今の生き方を見直そうと心に決めるのです。

 

第7章 トンガリロ

〜ニュージーランドの北島〜

この物語では、第4章で希美が被っていた帽子を製作している立花柚月が主人公です。

 

彼女はかつて、仕事で海外に渡っていた時期があり、その頃の恋人である吉田と

 

ニュージーランドのトンガリロをトレッキングすることに。

 

自由な旅が好きだ、とプランも何も立てず自由奔放な吉田にハラハラさせられながら冒険を楽しんでいた柚月は、

 

吉田とは相性が合っていると思っていました。


旅の最後に、吉田は柚月に会社を辞めて国際ボランティアに応募したい。

 

発展途上国で働こうと思っていることを打ち明けます。

 

柚月は、応援していました。

 

その後柚月の海外任務は終わり、日本へ帰国します。

 

ところが吉田は、まだ会社を辞めずに国際ボランティアへの道も諦めていました。

 

一方、柚月は帽子作りを本気で勉強したいと思うようになり専門学校へ通い始めます。

 

吉田には柚月が現実から逃避していると映り、柚月に当たり散らし、とうとう2人は破局。

 

そして15年後、柚月は再度1人でトンガリロのツアーに参加することを決めます。

 

そのツアーには、これまでの章で登場してきた面々が揃っていました( ̄▽ ̄)

 

神崎と美津子。

 

彼らは、結婚し夫婦になっていました。

 

そして、
しのぶと…しのぶが大学時代、山岳部退部のきっかけとなった友人、永久子。

 

美津子は、柚月が手がけた帽子を被って参加していた、柚月の名前を知るなり興奮し話しかけてきます。

 

柚月は、実際に自分が作る帽子を被っている人を初めて目の当たりにし、嬉しい気持ちと帽子作りという選択をとってよかったと胸を熱くします。

 

吉田との旅を思い出し、自分の原点を確認しつつも、ひきづっていた過去の想いに決着をつけて前に進み出そうと決意します。

 

第8章 フェスティバル・カラフェス

最後の章では、再度、希美が登場します。

 

ここで、希美の姉、美幸は離婚を回避できて、幸せを取り戻していることがわかります。

 

希美はその後も登山を続けますが、1人では登山を十分に楽しむことができず登山仲間が欲しいと思うようになっていました。

 

そんな時、「山女日記」という山ガールたちの登山専門サイトに、クマゴロウという二十代の女性が

 

希美と同じ悩みを打ち明けているスレッドを見つけます。

 

そこでヤマケイ涸沢フェスティバル、通称カラフェスという存在を知った希美は、早速参加します。

 

当日、会場に向かう途中に出会う人々に勇気を振り絞って声をかけてはみるがうまくいかず…

 

もう自分には無理なんじゃないかと諦めかけていた時、若い女性に声をかけられます。

 

彼女も今回が初めての参加ということを知り、2人は徐々に距離を縮めていくと

 

その女性は、なんとあのクマゴロウだったのです。

 

共に北穂高を登り、楽しい一時を過ごします。

 

気持ちの良い空気に包まれている彼女とまた一緒に登山したい!と希美は強く思うのでした。

 

最後に思ったこと

登山経験ゼロの私でも山の魅力を存分に楽しめました^^
登場人物が初歩的な知識を教えてくれます。

私にとっての「へええ💡」な豆知識が満載。

それぞれの章が山の名前になっているところもいいですよね、
知らない名前ばかりでしたが、登ってみたいなって気持ちになりました。

人が山登りをするのには、いろんな目的や理由があり
たとえ登る山や食べるもの…など、同じ経験をしたとしても、本人によって受け取り方はそれぞれ異なるんですね。

キツいと感じるタイミングも、
もちろん、感動する場面も…

会社の同期と初めての登山に来た主人公は、山を進むごとに連れの彼女にイライラがむき出しに…
気まずい空気になるどころが、2人ともガツガツ歩み寄っていくところは

え、逆にそうなる?😲…と。

お姉ちゃんとの2人きりの登山のお話では、
いつも下に下に見てくるお姉ちゃんが嫌で嫌で…
勝手に妄想して自分を守ろうとバリアを張るような言動をとっていた自分に気付かされる主人公。

関係性は違えど、共感できる箇所盛りだくさんでした^^

自分に正直になれて、人と真っ向からぶつかり合える….

登山パワーなのでしょうか。

ただ黙々と一歩一歩踏み出す。
周りの人との触れ合いで気づく…今まで見えなかった他人の気持ち。

登山..っていいですね。
そんな気持ちになる作品です。

最後までありがとうございました♪
それでは、今日も素敵な読書時間をお過ごしください🌸

れんげ

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