こんにちは、れんげです。
今日は前回に引き続き恩田陸さんの「黒と茶の幻想・下」を紹介していきます。
上巻をまだ読んでいないという方は、こちらの記事でレビュー・感想を書いていますので是非^^
ストーリー
大学時代の四人の旅も終盤へ。
突然姿を消した共通の友人、梶尾憂理は既に亡くなっていた。
衝撃の真実に親友だった利枝子は何を思うのか。
静かな森を進んでいく彼らが旅の中で見つけたかったこと、本当の目的は何だったのだろう。
そして旅の終着点、伝説の桜の木に隠された「美しい謎」の真相、最後の賭けとは。
人間味あふれる最高の長編ミステリー。
こんな方におススメ!
・ミステリー小説が読みたい
・ゆっくり時間をかけて物語に浸りたい
・懐かしい旧友に会いたくなる
・謎解きが好き
読みやすさ(難易度)
上巻に引き続き、下巻は「蒔生」と「節子」の章で分かれています。
内容としては、上巻より人間の闇や冷めた部分が垣間見えるという…冷ややかな印象が強いです。
構成は、上巻と同じく改行が少なく章分けも二つだけですので一章ごとの重みがズッシリきます。
緊迫感や空気の重みも文章からじわじわ伝わってくる気がしたので、これはもしかしたら、著者のちょっとした計らいなのかなと考えてみたり。
見どころ
下巻で注目してほしいのは、やはり蒔生が明かす憂理という人物の真実。
好き嫌いを超えた感情に揺さぶられ壊れていく彼女は、上巻で想像していた彼女とは別人です。
そして「蒔生」という恐ろしく冷静で独特な人物像、「節子」という章を最後にした理由に衝撃と納得を受けます。
どの部分も目が離せないほど面白い構成です。
感想
ここからは、私が個人的に気に入っている台詞や文を抜き出して自由に感想を書いていきます。
誤字脱字や稚拙な表現が目立っていると思いますが、よかったらどうぞ優しい目で覗いて行ってくれると嬉しいです。
ネタバレを含んでいますので、先に読了をおすすめします。
旅の目的
彼らは、目的をもって旅に出てきた。
利枝子は、蒔生への想いの決着と憂理と彼との関係を知るために。
彰彦は、彼自身がずっと縛られてきた親友の死から解放されるため、答えを探すために。
蒔生は、自分に捨てられたもの、壊してしまったものを探すために。
節子は、現実世界から逃れ幸福な瞬間を味わうために。
そしてそれは当然のように、誰の耳にも入らず口にもしない。
大学を出た四人は、大人になるにつれお互いが知らない時間が増えていく。
仲が良かった過去の友人の知らない姿、ふとした瞬間の冷たい表情を目にしたら、私は何を思うのだろう。
蒔生から真実を聞かされた利枝子の心情を考えると心が痛い。あんなに愛おしくて素敵な時間を共有した人だったのに。
よく知っているようで何も知らなかったと落胆する彼女。
でも利枝子は旅の目的が果たされ、ピンっと張っていた線がプつッと切れ、吹っ切れたようだった。
憂理の想いは彼女に届く日は来るのだろうか。
この小説を読んでいて感じたことーーーー人は、他人に対して理想を押し付けていて本当は何も知らないのではないか。
大人になってある程度世間を知った頃、そして物事や人を冷静に判断できるようになった時、気づく瞬間がくるのだろう。
なんだか面白そうで恐ろしい。今だから分かるあの頃の思い出。
私も旧友に会いたくなった。
節子
上巻での彼女の印象は、自由奔放で誰とでも打ち解けられるような明るい性格の持ち主という感じだった。
彼女の章(最終章)を読んで衝撃を受けた。
幼い頃、他人との接触を嫌い一人だけの世界をつくろうとしていたこと
夫の病気が分かり、余命があともうわずかなこと
辛い顔一つせず泣き言も言わず、旅を終えようとしている。
彼女は強い。
あらゆる困難を経て、得てきたスキルなのだろうか。
人一倍空気を読み気をつかって場を盛り上げようとする彼女を他の3人は、”旅に居なくてはならない存在”と心得ている。
そして友達想いである。
私は、彼女が人生というものを悟っているようにも見えた。
ーーーーー苦痛や不幸がないと、満足できない人間。
あたしは、概ね幸せにやってきた。これからも、自分の幸せを自分で台無しにするようなことはしない。
幾つかの不幸と災難ごときで自分を損ねることはしたくない。
節子がこの旅行を、この4人の時間を心から楽しんでいるのが伝わってくる。
これを糧に、これから彼女を待ち受けている困難と悲しみに立ち向かっていくだろう。
最後に
この小説の終わり方は、予想以上に穏やかでこれまでの混乱、複雑で痛々しい心情の交差を優しく包み込んでくれるようです。
そして、節子が解いた桜の木の謎は美しくまさに旅の終わりにふさわしいエンディング。
その後の4人のストーリーも読んでみたいなという気にさせてくれます。
是非、皆さんにも読んで頂きたい小説です。
れんげ