【おすすめ小説】篠田節子『長女たち』これは読むべき!親の介護をする女性たちの壮絶な現場が描かれた傑作

長女たちの介護の現場を描いた壮絶な物語

あなたは、そこまでして私の人生を邪魔したかったの?

老親の呪縛から逃れるすべもなく、周囲からも当てにされ、

一人重い現実と格闘する我慢強い長女たちを描いた3つの物語

(Amazonより)

 

れんげ

こんにちは、れんげです。この記事を書いている私は、年間読書量250冊の小説好きインドア女子です。私が本を読んで感じたことをそのまま書いています。本選びの参考にして頂けたら嬉しいです

今回読んだのは、篠田節子さんの『長女たち』です。

心情描写
(4.0)

読みやすさ
(4.5)

没入感
(5.0)

独特な価値観
(3.5)

Total
(4.5)

おすすめしたい人
・性別・年齢問わずおすすめしたい
・高齢化社会の日本を客観的に考えたい
・親の介護について考えたい
・認知症 / 糖尿病について知りたい

本作は3つの物語から構成されています。
それぞれの紹介と感想(ネタバレなし)はこちら⬇︎

第1章 家守娘

認知症の母を介護するため、

恋人も仕事も諦めた直美のお話。

 

結婚してさっさと家を出て行ってしまった唯一の肉親、妹に母親の症状の深刻さを説明するも

 

理解してもらえず、挙句の果てにケアが足りないと自分のせいだと言われてしまう。

 

”家も土地も金も母も、何もかも捨てて

とっとと逃げ出せたらどんなにいだろう”

 

実の母親からの容赦ない罵りの言葉。
1人で外にも出られない窮屈さ。

私が何もかもを犠牲にして、24時間つきっきりであなたを介護しているのに、

あなたは私も財産泥棒呼ばわりする。

 

妹ばかりを可愛がる…

 

思うようにいかない毎日を疎んじながらも、

 

これまで自分が母親に守られてきたことや

母親を見捨ててはいけないという想いが、彼女自身をその場に踏みとどまらせようとする。

 

全く役に立たない妹。

 

でも、そんな無条件の信頼と愛情と同情と涙を流してくれる者が年寄りに必要なのもまた事実。

 

この章では、認知症の母の介護を通して「長女」という役割から逃げられない主人公の

悲痛な叫びをただ、ひたすらに感じる。

 

ホームや病院に移れば、私は楽になる。

でも、現場での業務効率化のためか母はオムツにされ車椅子に乗せられる。

焦点があってないような目でどこかをじっと見つめている母。

生きる気力を一気に失っていく母は可哀想で見ているのがとても辛い。

だったら私が….

 

認知症・介護という、いずれ私が経験するかもしれない状況が鮮明に描かれている本章は、

事前知識として頭に入れておこうと思いました。

初期症状の詳細や、病院の診察でも発見されづらいレビー小体型認知症・パーキンソン病などについても

分かりやすく描かれています。

第2章 ミッション

 

私の中で一番印象に残っているのがこの二つ目のお話です。

 

一章目に続き、親の死が関わっているヘビーさは変わりないですが、

文化人類の観点や近代日本でのお年寄りの位置付け・

介護の在り方とは大きく異なる新しい価値観(私の中で)が登場するところが非常に面白いと感じました。

 

小さい村での特殊な信仰、彼らの医療に対する考え方に興味がある方は

こちらの2章目から読み始めると、全体への興味がさらに広がっていくと思います。

 

さてさて、

 

この「ミッション」は、亡き母親の担当医に憧れた主人公の頼子が、

医師となり彼を追ってヒマラヤ麓の町で医療を普及させようと奮闘するお話です。

 

そこでは、古代からの呪術や薬草医の治療が根強く存在し、

頼子たちが日本から持ってきた画期的な医療技術は結局跳ね返されてしまいます。

 

薬の効果、手術の技術などで延命し、体調が良くなっているはずなのに

なぜ町の人々は素直に受け入れてくれないのだろう。

 

そこには、彼らの独特な”死生観”に解決の糸口がありました。

 

”この土地にはこの土地の生き死にがある。それを壊さないでくれ。”

 

この町で出会った老人が、頼子に孤独死した父親を連想させます。

 

これまで彼女が後悔し悔やみ続けてきた、父の死に方について..

新しい価値観、新しい当たり前との遭遇によって、主人公はその呪縛から解放されたのだろうか。

 

高度先進医療が発達した日本。

と同時に、安楽死を許さない日本。

 

とにかく延命を。延命を。いくら苦しくても、痛くても、辛くても。

 

高齢化少子化を迎えているこの土地で年老いていくことが本当に幸せなのだろうか。

深く考えさせられました。

 

第3章 ファーストレディ

 

最後は、糖尿病の母親の世話をする長女、慧子の物語。

 

医師の家へと嫁いてきた母親は、義母からのいびりに加え、

夫の無関心な態度に我慢しながらも一人きりで慣れない環境を生き抜いてきた。

 

弟と父親には言いたいことは言えず、娘にだけ自分の気持ちを伝える母親は、

慧子の顔を見るとひたすら不満不平を並べ始めるのであった。

 

症状は深刻ではないが、着々と体を蝕んでいく糖尿病という病気。

周りの言うことを一切聞こうとせず、隠れて甘いものを口に詰め込む母を冷ややかに見ている自分…

 

母はどうしてこうなってしまったんだろうか…

 

子は親の介護のために生まれてきたのか。
親は子に老後の面倒を見てもらうために子を産むのか。

 

寿命を伸ばしてあげることと親孝行は、必ずしも繋がらないのかもしれない。

母には私しかいない、
母の本心は何なのか。

と、いつの間にか雁字搦めになっていた自分に気づいた慧子がこの後とった行動とは。

 

彼女の気持ちがリアルに描かれていて、最後まで目が離せない

 

逃げ出したい、何もかも投げ出したくなる衝動、と同時に襲ってくる

親を見捨てることへの罪悪感は計り知れない。たとえ、親が望んでいなくても。

 

本編を読んで、私だったらどんな決断をするのか。

たぶん自問自答をひたすら繰り返すんだろうな。

 

もしかしたら、お母さんは本当のこと言ってないのかもしれない。

本当はもっと生きたいって、思ってるのかもしれない..。

 

考えれば考えるほど答えがなくて、
未来が暗くなってしまうようなテーマが揃った本作だけど、

 

これから私の身に起こるかもしれないことへの心の準備として読んでよかったなと思いました。

 

少しばかりの心の余裕、エネルギーがある時に読んでみてください。

それでは、本日も素敵な読書時間をお過ごしください♪

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

れんげ

 

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