本日は、宮部みゆきさんの「希望荘」という小説をご紹介します。
楽しみにしていた杉村三郎シリーズ第4弾です!
今回は、今までの作品とは一味違う印象を受けましたが安定した面白さです。
私が普段触れることのない社会の裏側、人と人の心情の機微などが描かれています。何と言っても、毎回驚かされる事件の結末は今回も圧巻です。
私のようなミステリー・推理物小説初心者にぴったりと言えると思います。
次回作も期待!
ストーリー
菜穂子を離婚し故郷に戻った杉村が出会う事件の数々。
第一章
亡くなったはずの老婦人が生き返った!?東京で私立探偵を始めた杉村が真相を探る。
第ニ章
今は亡き父が生前に残した”人殺しの告白”。孫と交わした約束の本当の意味とは…
第三章
杉村の故郷が舞台となり、東京に戻り私立探偵事務所を始めたきっかけとなる事件を振り返る。
第四章
東北大震災直前に旅行をすると行方をくらまし、そのまま安否不明となった店主。対災害の陰に隠れていた驚くべき真実を推理する。
こんな方におススメ!
・推理小説初心者
・シリーズものが読みたい
・親しみやすいキャラクターがすき
・ゆっくり小説が読みたい
読みやすさ
今までの杉村シリーズ3作品と比べると読みやすさが格段に上がっていると思います。
まず大きいところは、短編集のように4つの章に区切られているところです。
リフレッシュしながら次のお話に没頭できるので飽きずに読了してしまいます。
毎度のことですが、登場人物の背景や過去の関連事件など簡単な説明文が添えられているので理解に困ることはないと思います。
一番はもちろん1作品目「誰か」から読んで頂きたいですが、この作品から読み始めても特に支障はありません。(実は私、この「希望荘」から読みました。苦笑)
殺人事件といっても目を反らしてしまいたくなるような残酷で気分を害すようなシーンはあまり出てこないので安心して読める気がします。
見どころ
4つの事件で構成されているこの作品は、やはり好みは読者それぞれ異なってくると思います。
私は、二章「希望荘」の中で杉村と武藤さんの孫・幹夫が会話している様子がとても可愛らしく思えて気に入っています。
ちょっと生意気だけど、おじいさんを慕っていた幹夫の無垢な様子は見ていて温かい気持ちにさせてくれます。
また、1作目からの杉村三郎の事件への慣れ具合と推理の上達が伺えるところも本作品の魅力かなと思います。
感想
ここからは、私が個人的に気に入っている台詞や文を抜き出して自由に感想を書いていきます。
興味のある方は覗いていってくれると嬉しいです。
ネタバレを含んでいますので、先に読了をおすすめします。
もし、気が向いたらこちらに戻ってきて頂けると幸いです。
離婚後の杉村三郎
第三作目までの菜穂子と桃子との3人の生活から一遍、実家に帰り病気の父のそばにいることにした杉村の生活はどこか寂しそうで、でもどことなく活き活きした様子が伝わってくる。
今多コンツェルンの婿としてのプレッシャーの中で過ごした結婚生活は、どのようなものだったのだろう。
愛する娘・桃子と会える時間を楽しみに待っている彼、桃子との話を嬉しいそうに聞いている彼を見ていると離婚の代償の重みを思い知らされる。
菜穂子はお手伝いさんに桃子を送ってもらうようになり、結婚という紙切れ一枚でなされる男女の契約は、いとも簡単に赤の他人のように、顔も合わさなくなり言葉も交わさなくなる。
なんて悲しいんだろう。
桃子はこれからどう育っていくのだろうか。勝手ながら、3人の温かな家族団らんの様子が懐かしく思えた。
守るために選ぶ手段
第三章の「砂男」はとても心に残っている。一人の男の報われない悲しい話。
ハッピーエンドとはかけ離れていて、私の心にわだかまりが残った。
人は幸福を求め、そのために努力する。だが万人にとっての幸福などない。
人は楽園を求め、必死に歩み続ける。だが万人にとっての楽園もまた存在しない。
この台詞には、私をやるせない気持ちにさせる。
男は、自分の愛する人を守るために害を排除し、そのシガラミから自分を解放することが出来ず自分の命をも経ってしまった。
人間はそのようにできている。人は犯してしまった罪を償いきれることはできない。
まともな心を持っている人ほどそれが強い。前作でも同じメッセージを感じた。
最後に
四作品すべて読んできたが杉村三郎の探偵としての活躍は、まだまだこれからのような気がします。
悲しい気持ちになることが多い本作品でしたが、合間にでてきては口を出す元<睡蓮>のマスターに癒されました。
彼もこれから、ずっと杉村三郎と共に事件に出会っていくのかなあ。
読み応えたっぷりの作品です!
ありがとうございました。
れんげ