今日紹介するのは、恩田陸さんの「黒と茶の幻想・上」という小説です。
恩田陸さんの描く物語は少し高レベルなところもありますが、一度ハマってしまうともう抜け出せなくなるくらい独特の魅力があります。
私は、彼女の一作目の「六番目の小夜子」から魅了され続けていて、すぐに手に取れるように本棚に置いてあります。
この作品は、理世シリーズを匂わせていてファンには堪らない物語展開です。
ストーリー
学生時代の同窓生だった四人は、ある島へ登山旅行を計画する。
旅のテーマは「美しい謎」。
森が生い茂る山々の中で、彼らそれぞれが内に秘めている想いが交差し、切ない過去の記憶が次々と蘇る。
大人になった今、明かされる真実。
四人の心に今でも深く存在する共通の友人、梶原憂理と何があったのか。
ちょっとビターな長編ミステリー
こんな方におススメ!
・ミステリー小説が読みたい
・ゆっくり時間をかけて物語に浸りたい
・懐かしい旧友に会いたくなる
・謎解きが好き
読みやすさ(難易度)
本自体の厚さはそこまで。ですが、難易度高めです。
登場人物(旅をする4人)によって章分かれしていて、章によって主人公が変化していき物語が展開していきます。
上巻と下巻で二章ずつにて割り振られていて、この上巻は利枝子と彰彦という組み合わせです。
章の構成は分かりやすいですが、場面の移り変わりが頻繁で回想シーンの多さに混乱してしまう人もいるかもしれません。
ストーリーは、恩田陸さんの別作品「夜のピクニック」の大人版のような印象も受けました。
島の滞在期間中での4人の会話がこの本の大半を占めています。
文章は、改行少なめで小説初心者の方には少々難易度が高いかもしれません。
読み応えはあります!
見どころ
登場人物それぞれの複雑な心情や個性の描写が魅力的。
旧友同士の大人の旅行らしく、普段の生活から解放され会話を心から楽しんでいる様子がとても素敵だなと思います。
「美しい謎」というテーマに沿って日頃のどうでもいい謎から、学生時代に起こった未解決事件の謎まで大人ながらに一生懸命考えて意見を出し合うところ、
仮説をたて様々なストーリーを魅せてくれる彼らの間に流れている時間が、とても楽しそうで、羨ましさを感じさせる場面です。
一方で、梶尾憂理という存在が彼らにとってとてもセンシティブな話題であり、なかなか話を振らなかったり逸らされたりと、緊張感が伝わってきて読者の興味をそり一層そそります。
感想
ここからは、私が個人的に気に入っている台詞や文を抜き出して自由に感想を書いていきます。
誤字脱字や稚拙な表現が目立っていると思いますが、よかったらどうぞ優しい目で覗いて行ってくれると嬉しいです。
ネタバレを含んでいますので、先に読了をおすすめします。
利枝子
人は見かけによらない。
そんな言葉が第一章を読んでいて浮かんできた。
利枝子は四人の中で一番静かで穏やかな印象を受けたが、彼女の章を読み終わった時、印象は正反対なものへ変化していた。
彼女の人間攻略法。すべて計算づくされているように思えた。
ーーーーーーーーー相手の弱さを見ると自分が優位に立っているような気がして安心する。
いつも人々を枠の外から静かに冷ややかな視線を向けているような女性のイメージ。
常に、彼女は人を見定め頭の中で色々な優劣・損得を張り巡らせているのだろうか。
蒔生との別れは、彼女にとって失恋という悲しみよりも、彼女を捨て他の女を選んだという屈辱という悲しみの方が大きかったのではないか。と私は思う。
彼女にとってその打撃はとても大きく、大人になった今でも鮮明に深く彼女の心に刻まれていくのではないか。
実際、相当なマヌケじゃない限り人は皆、無意識に他人と自分の優劣をどこかで見定め、損得を判断しているんだと思う。
小さい子供でもそれをしているのを目にすると感心してしまう。なんだか滑稽である。
彼らの他愛もないお喋りは私の中でお喋りの範疇を超えていた。
今までに考えたこともない非現実的なことや人間の心理についてが次々と尽きることなく話題にあげられる。
彼らの会話は聞いてるだけでも飽きることがない。
これは恩田陸さんが普段考えていることなのか、、、と想像するとなんだか楽しい。
”単体生殖する生命体”について意見をぶつけ合っている場面があった。
彼らの会話の質の高さ・展開の速さに驚いたし、男女・単体のどれが欠けてもいずれは絶滅するという結論付けに納得した。
生命が生き延びるためには幸せになってはいけない。
男女は分かりあっていけない。
スタートラインから別の場所にたっているのだと。
そして毎日が死に物狂いの戦いになるということ。
私も利枝子の”滅びてもいいから、幸せでいたい、穏やかでいたい”という意見に大いに賛成である。
4人の関係
読んでいて何度も不思議に思うのは、彼らの友情関係が本物なのかどうかである。
旅行に一緒に行く友人というのは、私の中で親密な関係・ある程度信頼を置く人というイメージがあるが
彼らを見ていると、なんとなく違う印象を受ける。
お互いのことを知っているようで知らないし、何を考えているのかわからない。と仕切りに気にしている。
どんな生活を送っているのか幸せなのかどうかも相手に気を使って聞きづらい。と変な距離感のある四人組だ。
しかし、登山中や食事中の会話、それぞれの謎について一生懸命考えているところを見るとこれまでの長い付き合いを物語っているようで、安心感を与えてくれる。
これが大人の付き合い方。友情の上手い維持の仕方なのか。
お互いの全てを知らなくていいし、説明する義務がない関係。
彰彦が、“あの三人ならきっと答えを見つける手助けをしてくれる”と思うように特別な空気が流れているような気がした。
最後に
上巻だけでも読み応えあって十分楽しめるのだが、やはり気になってくるのは憂理と蒔生の関係と憂理のその後の人生。
利枝子と蒔生の蟠りは緩和されるのだろうか。
下巻も併せて読むことをお勧めします。
本日も最後までありがとうございました。
れんげ