本日は、三浦しをんさんの「まほろ駅前多田便利軒」という作品を紹介します。
三浦しをんさんの小説スタイルは老若男女楽しめるような気がします。
細かいところまで手を抜いていない、というか彼女の観察眼のすごさと表現力の鮮明さが伺えます。
とても完成度が高い作品ばかりです。
小説のテーマは作品によって様々で、社会問題で扱われているとうなシリアスな題材、青春物、リアルな世界を面白おかしく変わった観点で描かれているという印象です。
ファンタジーとか、ホラーなど非現実的なものはあまり見受けられません。
私イチオシの作家さんです。
ストーリー
東京のはずれにある、まほろ市。
客引きをしているどこの国の人が検討がつかない娼婦がごろごろ、薬の売買が盛んにおこなわれている「駅裏」やデパートや商店街が
立ち並ぶ「南口ロータリー」など様々な顔を持つこのまほろ市に多田啓介が営む「多田便利軒」が位置している。
多田のもとに突如現れた行天春彦との多田便利軒での謎の共同生活が始まる…
行天の登場により多田の人生が一変していく。
こんな人におススメ!
・シリーズ好き
・映画化でも見たい
・きれいごと無しの現実感あふれる物語が読みたい
・男のロマンを感じたい
読みやすさ
この本は六章から構成されています。
人物間の会話が多く全て主人公・多田の視点で物事が描かれているため、統一感があり読みやすいです。
特に、用心が必要な内容は無く、割とシンプルで言葉のままの意味を読み取れるので初心者の方にも親しみやすい作品だと思います。
舞台であるまほろ駅周辺の独特な雰囲気と個性的なキャラクターは、読者がイメージしやすくあっという間に読み終えてしまうでしょう。
シリーズ化されていますが、この一冊で完結してしまってもいいような満足感があります。
見どころ
主人公・多田の心情と共に展開していく物語ですが、各登場人物への多田の反応、ツッコみがいちいち面白いです。
行天の意味不明な行動と驚きの過去にも注目して頂きたい。
ワケアリ男2人組の空白の間に一体何があったのか、不思議な共同生活の中で築かれていく妙な友情関係。
はっきり言わないけど、お互いがお互いを必要としている人間関係って素敵だなと思わせてくれます。
感想
ここからは、私が個人的に気に入っている台詞や文を抜き出して自由に感想を書いていきます。
誤字脱字や稚拙な表現が目立っていると思いますが、よかったらどうぞ優しい目で覗いて行ってくれると嬉しいです。
ネタバレを含んでいますので、先に読了をおすすめします。
多田と行天が感じる孤独
二人が抱えていた過去には決して同じ種類のものではない重みがあって、だけど、”孤独”という共通のものが存在していた。
それは、誰も口にせず分かりっこないことだけど、どこかでお互いを理解しているようだった。
最初から決して簡易的ではなく何か深いものがあるように見えた。
結局、行天も俺も一人だということだ。
多田は思った。
一人でいる重さに耐えかね、耐えかねる自分を恥じているのだ、と。
そして、軽蔑と哀れみは紙一重であるということ。
「他人への軽蔑は、反射して自分に返ってくる」
多田の言葉は、私に突き刺さった。
どんな小さなことでも、相手へ軽蔑や哀れみを感じたとき、同時に自分自身を鏡で見ているような感覚に陥るときがある。
後で後悔してしまうこと、自分では気づけなかったこと。
そして自分が恥ずかしくなる。とてもいたたまれない気持ちになる。
ただ、そういう機会が与えられるからこそ人間は変われるんじゃないかと思う。
この本は多田の心情がメインだったが、行天が何を考えているのか知りたい。
彼が過去に恋人に協力したという人工授精。まだ一度も会ったことのない娘。全てを捨てまほろ市に帰ってきた彼は何を思っていただろうか。
また、彼の両親はどんな人だったのだろう。
未だに彼の謎が多い。
もしかしたら次回作で明らかになっているのかもしれない。
幸福は再生する
多田が本の最後に言った言葉である。
形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ。
失ったものや取り返しがつかないことは戻ってこない。死んだ人も人を傷つけてしまったという後悔も。
それは多田も知っていた。もうどうしようもないということを。
多田が由良に伝えたかったことように。行天が愛した恋人のように。
ーーー自分ができなかったことを、新しく誰かに与えるチャンスはある。
多田は、行天と過ごした約1年間を経て今の自分に何ができるのか前向きに踏み出そうとしている。
最後に
特に何も語らず、目から、外部のみの情報からお互いを知っていくという2人の生活ぶりが、どこかもどかしく”未完成な大人”という印象を受けました。
これからの展開が楽しみです。
映画化もされているようなので、実写化版にも興味があります。
本日も最後まで読んで頂きありがとうございました。
れんげ