本日は、宮部みゆきさんの「名もなき毒」という小説についてお話しさせて頂きます。
杉村三郎シリーズ一作目の「誰か」に続く第二作品目ということで、私は当然のように手に取っていました。
私の中で一作品目が相当ヒットしたみたいですw
私のような、楽観的でいつも現実離れしているような人間は、あまり人の本質・怖い部分に触れることがあまりなかったのでとても勉強になりました。私の思量や思い込みはもちろん他人とはどう頑張っても共有できない部分があって、それを理解することは自分自身を守ることにも値するんだなと。とても暗いことを言っていますが、、”当たり前は存在しない”のですね。
人は他人を理解できているようで本当は何もわかっていないのかもしれません。
ちなみに第一作品目のレビューはこちらにあります。
ストーリー
杉村シリーズ第二作目であるこの小説は、お馴染み杉村三郎が副編集長を勤める今多コンツェルン広報室に新しく雇われたアルバイトの”原田いずみ”について。
さらに、街で次々と発生する無差別と思わしき連続殺人事件に対する推理と二本立てで物語が進行される。
解雇されてもなお、杉村に付きまとうアルバイト、シックハウス、土壌汚染など誰のせいにもできない様々な”毒”を描いていく。
逃げたくても逃げられない恐怖とは…
こんな方にオススメ!
・推理小説初心者
・長編物語が好き
・シリーズ作品が読みたい
・休日にゆっくり読める小説を探している
読みやすさ
一作目同様、章に分かれていない長編推理小説です。
慣れていない方には、少し長いなと感じる方もいると思います。
登場人物もなかなか多く、扱うテーマも多様ですので飽きがこなく次の展開が気になってしまう良い構成です。
推理と言ってもあまり難しすぎず、私でも理解できるほどのシンプルさとスッキリな終わり方です。
一作目を読了していない方でも、人物紹介と背景情報が充分に含まれているので問題なく物語に入り込めると思います。
見どころ
二作目ともなると、主人公、杉村三郎を中心とするお馴染みの顔ぶれが登場し、早い段階から面白さを感じます。
新しく登場するキャラクターもいますが、杉村さんがしっかり説明してくれますので迷子になりません!
中でも原田いずみという人物が印象に残っています。彼女のサイコパスぶりは特に恐ろしい。ぜひ、注目して読んでみてください。
緊迫したハラハラする展開など見所はたくさんありますが、全体的に義父の偉大さ、家族の大事さを杉村が再確認していく様子に、心打たれるシーンが印象に残ります。
また、一作目からの杉村三郎の探偵としての成長ぶりや桃子ちゃん(杉村の娘)の成長を感じることができたりと色々な顔を持ち合わせている一冊です。
感想
ここからは、私が個人的に気に入っている台詞や文を抜き出して自由に感想を書いていきます。興味のある方は覗いていってくれると嬉しいです。よろしければあなたの意見を聞かせてください。意見交換等していけると嬉しいです。
ネタバレを含んでいます。もし、読了していない方はどうぞ先に読んでみてください^^
もし、気が向いたらこちらに戻ってきて頂けると幸いです。
義父
だから私は腹が立つ。そういう形で行使される権力には、誰も勝てん。禁忌を犯して振るわれる権力には、対抗する策がないんだ。何が今多グループの総士だ。無力なことでは、その辺の小学生と一緒だろう。
杉村を入れた広報部5人が、原田いずみに睡眠薬を飲まされ病院に搬送される。後日、義父である会長に”権力”とは何か聞いたときにこう答えた。
杉村の義父であり、今多コンツェルンの会長である彼は杉村と菜穂子の結婚(杉村の逆玉)を快く受け入れてくれた杉村の恩人とも言える人である。結婚条件として色々注文はあったようだが、菜穂子をとても大切に思っている様子が伺える。
一作目の「誰か」ではほんの少しの登場であったが、彼の貫禄さが一文で伝わってくるほど偉大オーラを放っていた記憶がある。この作品で、彼の人あたりのよさや人生観、杉村に対する信頼の強さがより鮮明に分かる。はたまた、娘の菜穂子や孫の桃子には甘く可愛い顔を見せたりするところがまたキャラの味を出している。
そんな彼の考える権力の本当の意味とは。これは、十分な権力を取得している彼らしい回答である。
_____”究極の権力は人を殺すこと”___
_____”究極の権力は人を殺すこと”___
悲しい現実である。彼は権力を持つことが人に与える影響、そして威力などを一通り経験してきている。そしてその上で、こうありたいという信念を強く持っているのだろう。
彼が社員一人一人を大事しているということ。
自分はそんな権力の持ち方は許さないということ。
守ってやれなかったという自分の権力の無さを噛み締め、そして苦しんでいるということ。
人の上に立つべき人間って実績があって、経験があるだけではだめなんだ。
まずは文章にかくこと
文章に書き留めること、それは自分の気持ちを落ち着かせる。そして、整理させる。
杉村はいつも人に物書きを勧めている。一作目の姉妹にも、この作品でもそう。
毒殺された叔父を殺した犯人を見つけたいという強い想いを持つ美智香には、作文を書いてみるよう勧めていた。
美智香は驚くほど元気になり、世の中に私の気持ちを発信したい、もっとたくさんの人に知って欲しいと言っていた。
憤りを感じたり、何か手につかないほど取り乱している時、迷っている時はまず文章にしてみよう。
もしかしたら今自分がしたいこと、次にするべきこと、本当の気持ちが分かるのかもしれない。
私もこのブログで思ったことを書いていてつくづく思う。
私の頭の中にはこんな考えがあったということ、それからこんなに感情豊かだったということ。
同時に、スッキリとする。思っていることを文章に記すというのは誰も傷つけず、自己を落ち着かせストレス発散できる。
原田いずみ
彼女は物語の中で常に予測不可能な行動をする。杉村三郎や彼の家族、同僚、すべての人たちの中にある”普通じゃない”域をさらに超えていたから、杉村は何も防げなかったのだ。(毒盛事件や桃ちゃんの人質事件)
彼女の生い立ちを辿っていくが、どうやら彼女のこの性格は幼いころからで、家族は心底困っていた。
世の中には、必ず、こちらがどんなに努力しても理解できないこと、分かり合えない人がいる。
これを私が身をもって体験したのは大学生の頃だった。
ぎゅうぎゅうの講義で2人分の席を探していた時、一人の男性が両隣が空かせて座っていた。
他の席が見つからなかったため、「すみません、一つ隣へずれていただけませんか」と丁寧に話しかけたところ、こちらをギロっと睨み、そしてずっと前を向いていた。
あ、無視だ。
わたしはなんだか恥ずかしかった。
結局、何も返事がなかったので私たちはその両端のせきに座り講義を受けたわけだが、、
その後ずっと彼の怖い顔が頭から離れなかった。そして、彼の態度がしばらく理解できなかった。というか今もできない。
それ以来、私は理解できないことがあったときは、こういう人なんだ!って素直に受け入れようと決めた。他人は全く違う生物で、私のこともきっと理解できていないのだろう。と。それはどうすることもできなくて頑張らなくてもいいということ。
ただ、だから他人と関わるときは慎重に注意深く、私自身と私の大切な人を守らなければいけない。
この物語の教訓です。
最後に
今回も非常に楽しませてくれました。
なぜ、この杉村三郎にただならぬ魅力を感じてしまうんだろう。
事件の犯人捜しも気になりますが、彼自身の人生の変化と成長の方が気になってしまい次々と次の作品を手に取ってしまいます。
みなさんは、彼のこと羨ましいと思いますか?
今回も、桃子ちゃんと菜穂子の家族団欒の様子がたくさん出てきてとても癒される場面もあれば、彼の寂しさも垣間見えます。今後の展開が楽しみです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
れんげ