「お父さんやお姉ちゃんが言うの。本当はお姉ちゃんがお母さんだったんだって」
甘ったれでわがままな7歳の少女、手毬。
家族に愛され、平穏な日々をおくるはずだった。
ある日を境に彼女の人生は一変する。
世の中は自分の思うようには動かない。
早く大人になりたい。–p326
知らない方が良かった事実。
私は絶対こうなりたくない。
母親が憎い。
17歳、かつては姉だった人を母親と呼ぶ二人だけの暮らし。
27歳で掴んだ結婚という名の幸せ。
その家庭を捨て幼なじみと駆け落ちした37歳。
愛と憎しみに満ちた家族との絆。
私が罰を受ける時がやってきたのか、
1967年から2027年、運命に流されるひとりの女性の歳月を追っていく長編物語。
秀逸すぎる構成の連作短編集
1967年から2027年の流れが7篇に区切られています。すべて異なる主人公で語られていきますが、周囲の人物や事柄は繋がっていく連作短編集です。
マーティンという外国籍の男の子から始まり、手毬(本作の主人公)、母親、手毬の娘、義理の弟…という風に移り変わっていく構成(順番)がとても秀逸で、手毬という人物を多面から見ることで、手毬だけでなく登場人物それぞれのことをさらに深く深く理解していけるのです。
語り手が変わることで、もちろんその章のリズムや色がガラリと変化します。
切なくかわいそうな話、ロマンチックな話、周りの目にはその出来事がどのようにうつっていたか、過去の衝撃の事実を読者が他人の口から聞かされてショックを受ける場面など全く飽きずに読み進められるのは、本作の魅力です。
女たちの人生の選択に度肝を抜かれる
山本文緒さんと言えば、女性が主人公の作品を多く手がけていて
特に女性の恋愛観や女どうしのリアルな心情描写が秀逸という印象があります。
本作にもやはり、さまざまな顔を持つ女性が登場しています。
女性の間に生まれる妬みや憎しみ、体が小さい子供ながらも女としての本能が働いているんだとショックを受けるシーンにドキドキしながら…
恋は良い意味でも悪い意味でも人を盲目にさせるという言葉がこの物語を読むと頭に浮かんできます。
仕事ばりばりして生きる女性というより、恋に生きる女性という印象が強いのが本作の女性のイメージかな。(唯一、手毬の娘は苦難を乗り越えて仕事を手につけて生活している)
争いごとや離れたり一緒になったり…男の人との関係が元になって起こる展開がほとんどです。
母親に対して、どこか見下していて、憎しみを持ちながら成長した手毬。
お母さんみたいには絶対なりたくない。
自分はそうはならないと思っていたけれど…
彼女の心の中で二人の自分が葛藤するシーン。
どちらも正解であり不正解という究極の選択を攻められている彼女のことを想うと、読んでいる私も息を止めてしまうほどの緊迫感。
周りの男の人や家族は、随分な振り回されようで気の毒ですが…
それでも自分の気持ちを優先する女性陣たち。おそるべしです。
結局それぞれの女性が幸せなのかそうでなかったのか、定かではないですが(手毬は最後つけがまわってきたと自分のことを言いました)
これが人生です。といわんばかりの山あり谷ありな険しい道を辿ってきた彼女たちの壮絶な半生に深く考えさせられました。
本作「落花流水」は、最後までどういう展開になるか予想できない内容で楽しめました。
あなたは、手毬の生き方についてどう思いますか?
家族という束縛や家族から自分を解放する難しさ….
うっとうしいって気持ちと、でも私がいないとって気持ち。
だけど、結局…
最後に自分の人生を振り返って、そして今の自分をみてみると。
私がこんなにひどいことをしたのに。迷惑をかけたのに。
憎くて憎くてもう一生顔なんてみたくないと思ってたのに。
実はずっとそばにいてくれたのは、
かけつけてくれるのは…
最後の展開は、とてもやりきれない気持ちになります。
果たして、何もかも捨てて自分の気持ちの赴くままに生きることが幸せなのか。
それとも自分の気持ちを抑えて抑えて家族のために尽くすこと…が幸せなのか。
主人公の老後の姿を見てしまうと、女性にとっての幸せってなんなのか。さらに答えがわからなくなります。
「母親」っていう重い責任と家庭に及ぶ大きな影響。
ここでは、母親みたいにはなりたくない。
恋愛なんてしたくない。ああいう人間が嫌いだとまで言っていた主人公が大人になっていくにつれて変化していく様子がとても繊細に描かれています。
人の人生って不完全で、矛盾と自問自答の連続です。
気持ちの良い読書体験、明るい気持ちになるわけではないけれど、
人生について、これまでの自分の人生の選択について
そしてそして、これから先の自分自身の生き方について、
思いを馳せたい方におすすめしたい作品です。
落花流水
タイトルの四字熟語ってどんな意味だっだかしら..と気になって調べてみました。
らっか-りゅうすい【落花流水】
落ちた花が水に従って流れる意で、ゆく春の景色。転じて、物事の衰えゆくことのたとえ。時がむなしく過ぎ去るたとえ。
男女の気持ちが互いに通じ合い、相思相愛の状態にあること。散る花は流水に乗って流れ去りたいと思い、流れ去る水は落花を乗せて流れたいと思う心情を、それぞれ男と女に移し変えて生まれた語。転じて、水の流れに身をまかせたい落花を男に、落花を浮かべたい水の流れを女になぞらえて、男に女を思う情があれば、女もその男を慕う情が生ずるということ。
流れる水とその水に乗って流れたいという花…という表現がこの物語の登場人物たちの男女関係のようです。
山本文緒さんが描き出す、
いつも何かに流されているようだけど、実は自分でしっかり人生の選択をしている女性たちの存在にドキリとさせられます。
小説のタイトル、私は本を読んだ後に振り返るようにタイトルをなぞってみるのですが、物語の1シーン1シーンがハイライトのように蘇ってきて、ああ、なるほど。だからこのタイトルなんだ。って、
ぼーっと読後の余韻に浸っている時間が好きです。
今日も良い読書時間をお過ごしください。
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