「あなたは三年前に死んでる。間違いありません。」
医師に言われた主人公の土屋徹生は、3年前に一度死に
数日前に突然蘇ったことを知る。
俺は妻も子供もいて、家も建てて仕事も頑張っていた。
なんで自殺なんてしたんだ。本当は誰かに殺されたんだ。
徹生の死因は…自殺。
徹生が蘇った頃、世界では死んだ人間が次々と蘇る「復生者」の存在が広まっていった。
生き返った彼らを家族や社会はどう受け入れていくのか。
自分の死がどうしても理解できず、その真相を追い求めていく徹生は、
人が死ぬ理由、生きる意味、そして自分にとっての幸福と真っ向から向き合っていく。
人が死ぬ理由 – ゴッホの肖像画
本作の文庫版上・下巻の装丁にもなっている、フィンセント・ファン・ゴッホの肖像画2枚。
インパクトありますよね。
この装丁に魅力を感じて本作を手に取ってみる方、少なくないと思います。
私もそうでした。
さて、この「空白を満たしなさい」では「死者の蘇り」という設定で物語が進んでいきます。その中で著者が、物語中深く深く弄っていくテーマは「人が死ぬ理由」です。
どういうタイミングで「死」を選ぶのか。
もちろん引き金は人それぞれですが、「死」に向かっていく際の思考回路はどうなっているのか。
本作の主人公の徹生は、自らの命を絶たなければならなかった理由が分からず苦しみ続けていました。欲しかったもの全てを手に入れて、充実した毎日を過ごしていた。幸福を感じていたはずなのに..なぜ自殺したのか、と。
そんな時、このゴッホの2枚の肖像画が現れます。文庫本を読まれる方は物語を読みながらチラチラ表紙を眺めたくなると思います。(私もやりました笑)
ゴッホは自らの命を絶つ時、何を考えていたのか。
彼の死の真相を語っていく池端さん(徹生が紹介されたカウンセラー)と徹生の会話がとても印象に残っています。
原田マハさんの「たゆたえども沈まず」というゴッホの生涯が題材となった作品を読んだことがあったので、とても分かりやすく物語の中に吸い込まれていきました。
ゴッホが自ら「死」を選んだ理由、そこまでのプロセスを考えてみることでこの物語の中に新たに見えてくるものがあるのでしょう。
幸福とは何か
幸福を感じてたのに自殺した。俺は自分から死ぬはずがない。誰かに殺されたんだ!
衝撃的でした。
何も自覚がない。感じていたはずの苦しみの記憶が出てこない。
出てくるのは家族との幸せいっぱいの時間。
彼は生き返ってから喜ばれたのも束の間、自殺という事実に苦しめられることになります。
社会から向けられる目は冷たく仕事は見つからない、家族である妻は疲れ果て、息子には拒絶され…
自分がしてしまったことの重みを痛感させられていくのです。
下巻で明らかになっていく…真相。これも目が離せませんでした。
あまりにも深くて暗い。
上巻から垣間見える主人公の人柄からは想像できないほどの闇。
仕事でくたくたになって帰ってきて、ベッドに入った瞬間に感じる幸福感。
今日も乗り切った。家族のために頑張った。
体が動かせないほどの疲労感。ああ、幸福だ。
…これは本当に幸福と言えるのか。
サラリーマンの徹生はつぶやく。
“分人”という概念を軸に、一気に視界がクリアになった主人公は自分のこれまでを分析し始めます。
カウンセラーの池端さんの体験談や考察が面白くて、私自身にも心当たりがあることも含まれていて読んでいて鳥肌たちました。
この作品を読んでみて…
恐怖を感じたのは、
「死にたい」
「幸福だ」
に結びつく過程は意外と紙一重なのかもしれないってこと。
そこまで辿り着くまでに自分でも知らぬ間に、
だれにも気づかれずに自分を追い込んでたってことがないように…
平野啓一郎さんは裏切らない。
今回も普段考えないことをうんと深く考えさせられて、面白い読書体験でした。
哲学的・宗教的思想がすこし入っていますが、興味ある方は手に取ってみてください。
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